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EPS(エリザベスのパーセントシステム)の秘密

自分サイズの編図が欲しい...

編み物掲示板を見ていると、「腹巻の編図はありませんか?」というような書き込みを見たりすることがあります。このような質問を見ると、いつも「いったいそんなものを探してどうするんだろう?」という思いにとらわれます。仮に、どこかに編図があったとして、指定毛糸・指定棒針を使って編んでも、一人一人のゲージは違いますし、腹巻をする人の胴回りもかなり豊かな方からスマートな方まで、違うでしょう。結局、自分で考えるしかないのです。また、その覚悟さえあれば、小さい試し編みをしてから全体の目数を計算するのは、たいした技術がいるわけでもありません。

しかし、残念なことながら、「編図」がないとマフラー一本でさえ、編めないというようは人はけっこういるようです。もちろん、初心者ならしようがないかもしれませんが、残念なことに上級者でも、「製図が面倒だから、本の通りに編んでいます」という人は決して少なくはないのです。

botarmline.gif 例えば、私たちは、実寸方眼紙ファイルを提供しているのですが、あるときお礼のメールが届きました。内容は「ベストを作ろうとしていたのだが、脇の減目ラインの計算をするために方眼紙を書くのが面倒でたまらなかった。これで助かります。」というようなものでした。この方は編み物講師の資格を持っていた方でしたが、日本の「編み物製図」というのは、特殊な用紙や定規が必要で、編み物そのものより面倒な気がするほどです。参考までに、脇下の減目カーブの割り出し方を説明すると、右のように製図します。A-D はアームホールの二分の一、A-B は身幅と肩幅の二分の一の寸法です。A-B間に斜線を引き、その中央点CからDへ線を引き、C-Dの中心点Oを求めます。A-O-B間を滑らかに繋ぎ、脇下のラインができます。あとは、方眼図にこのラインを描いて、減目数を求めます。(実は、私たちはこの方法で求められる曲線の意味を真剣に考えてみましたが、おそらくたいした意味はないと思います。図は、分かりやすくA-D,B-Dを同じ長さにしてみました。このとき、これに接するように円弧を赤線で描いてみたところ、製図の線とほぼ同じになります。つまり文字どおり、この線は「丸い線」でよかったわけです。)

こんな状況では、「だれでも自分サイズの丸ヨークセーターを編めるようにしたい」というような夢は、どれほど大きな野望であるか、語るまでもないでしょう。EPSは、そのような夢を持った一人のアメリカのニットデザイナーが生み出したものです。

実は、アメリカにおいてもパターンがないと編めないという人は多いのです。アメリカでは日本のように編図を使わず、編み方は全て文字で表現する「テキストパターン」が主流ですので、日本よりも条件は悪いと言えるかもしれません。編んだ経験がある人なら分かると思いますが、テキストパターンを使って編むと、その記述の通り表目・裏目と編んで行ったら、自然に出来上がった、という感じになり、今説明しているのが全体のどの辺なのかさえ分からないことがあります。実は、テキストパターンではそれを読みながらサイズ調整をしたりすることは、よほど簡単なものでないかぎり、ほぼ不可能です。ですから、自分サイズのものを編もうとすれば、どうしても図に頼る必要があります。つまり、「製図」が不可欠となるのです。

アメリカのニットデザイナー、EZことエリザベス・ジマーマンは、編み物を略号で表現する編み物界に反旗を翻して、もっとやさしい言葉で、誰でも編み物が出来るようにしようと決意し、Knitting without tears (簡単な編み物)を出版した人です。EZは編み物の技術を簡単するべく真剣に研究するのですが、そのための重要な提案が、「輪針を使って輪編みを編む」ということでした。EZが編み物を教え始めた頃、アメリカでは輪針は一般的ではなかったようです。EZが輪編みを推奨したのは、「裏編みをあまり編まなくて良い」という利点があるからでした。初心者にとって、裏編みは表編みより格段に編みにくいのですが、このような当然のことさえ、あまり真剣に考える人はいなかったのです。EZの作品は、輪編み部分はメリヤス編み、平編み部分はガーター編みが中心になるように巧妙に工夫されています。

EZは次に「輪編みだけで編めるセーター」に知力を注ぎ込み、やがて「EZ(イージー)セーター」と呼ばれる「シームレス丸ヨークセーター」を完成させます。しかし「EZセーター」には大きな問題点がありました。サイズ調整の計算が難しいのです。丸ヨークの製図をやったことがある人なら分かると思いますが、ヨークの製図には「分散減目」という技法が必要とされ、これがとても面倒です。おそらく、日本で相当高度な技術を持っている人であっても、色々なサイズの丸ヨークセーターを簡単に製図できると言う人は少ないでしょう。

これには、さすがのEZも相当手を焼いたようです。20年以上の試行錯誤、800枚の「EZセーター」を編む中で彼女は比率(パーセント)を使った製図法を洗練させていきます。この方法は、かなり後になって エリザベスの(E) パーセンテージ(P) システム(S)、略してEPSと呼ばれることになります。EZは、アメリカ中の母親が家族のためにそれぞれのサイズのセーターを編んで着せるという、今となってはちょっと古臭く感じられるような夢を描いていたようです。このEPSこそ、EZの生涯をかけた情熱が生み出した、極限までに洗練された製図法なのです。製図といっても、日本の製図のように特殊な用紙や定規は要りません。必要なものは、小さなメモと鉛筆、それだけです。

丸ヨークのEPS

EPSでは、最初に身頃の身幅を決めます。これは、今着ていて着心地のよいセーターの身幅を測ると良い、ということです。この数値をニ倍して胸周りの寸法を決めます。これが基本の数字で、100%となります。 後は、図に書いてある比率を当てはめて、ゲージを元に目数を決めます。ゲージを取るには、おそろいの帽子を編んでみるのがよい、とEZは提案しています。

丸ヨーク部分は、最初に全体で133%相当の目数を輪編みにします。もちろん、正確に133%でなくても構いません。ヨークの模様がある場合は、当然目数の調整が必要です。実際は、133%相当の数値から逆算して袖の部分の目数を調整しておくといいでしょう。そして、ヨークは胸周りの12.5%までの長さ分、増減目なしに編みます。そこから、さらに12.5%編む間に、3回ほぼ33%減を行います。そうすると約40%が首周りとして残ります。33%減というのは、要するに表目・左上二目一度の繰り返しをするということです(三目がニ目になるので、33%減)。どの段で33%減にするかはある程度任意です。ヨークの模様をつける段階で、模様と模様の間の段で一色になるところで減目をするという方法が一番簡単です。最後は、必要に応じて首の後ろ側を引き返しで少し増やして(この方が着易いが、難しければ省略)からゴム編みにします。脇は最後にメリヤスはぎで合わせます。

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分散減目も、円周率の計算もいらない丸ヨークのEPSシステムは、難しいはずの丸ヨークせーターが、裏編みも、とじはぎもほとんどなしに完成する「イージー」セーターになってしまうという、魔法のような製図法です。 ヨーク部分の模様、配色を工夫して、ぜひあなた自身のセーターにチャレンジしてみてください。もちろん、いずれ私たちもオリジナルデザインを「シンプルなセーター」としてアップする計画があります。(うぅ、時間がない.....)



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