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輪編みの編み方徹底図解 |
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棒針を使った輪編み技法の図解です。歴史的輪編み技法の解説もあります。 |
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2.3 セーターの輪編み
ここでは、セーターのような大きな作品の輪編みを見てみます。大きな作品では、シースやニッティングベルトというような補助具も使われます。
No. | オリジナル写真(部分) | 編針の位置 | 引用文献 | データ |
(6) |
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'Knitting From The Netherlands' pp13 Henriette C. van der Klift-Tellegen Lark Books 1985
Original Photo: G. Wakker, Urk
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撮影場所 | オランダ |
撮影年月 | 不明 |
作品 | セーター |
編み姿勢 | 立位 |
編み方 | 不明 |
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若い女性が戸口の前に立って編んでいるところです。右手の「編み針」の位置が良く見えませんが、左脇に比べて右脇が閉められているので、脇の下で針を挟んでいるようです。針の長さは非常に長く、セーター用と思われます。針が長いため編んでいるうちに顔を傷つけそうに思えます。想像ですが、N3がもう一本の針より短く見えるので、写真のP点あたりで衣服に針先を差し込んでいるようにも見えます。(実際に、現在でも着ている服に針先を刺すニッターがいます)脇の下に挟んだ針先に手全体を胸に押し付けるようにして編んでいったものと思います。「休み針」は親指と人差し指の間ではなく、親指の外側を抜けているようです。少し窮屈そうな編み方ですが、実は編んでいるのは、セーターの首の部分です。どうもセーター全体を右脇に挟んで(片袖は垂らしています)、立ったまま編んでいるようなのです。そのために、このような窮屈な感じになっているのかもしれません。しかし、立ったまま首の拾い目をして、そのまま編むことができるとは...。日本人でこれができる人、いるのでしょうか?(やる必要ないかもしれませんけど)
No. | オリジナル写真(部分) | 編針の位置 | 引用文献 | データ |
(7) |
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'The Art of Fair Isle Knitting' pp54 Ann Feitelson Interweave Press 1996
Original Photo:Shetland Museum
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撮影場所 | シェットランド |
撮影年月 | 1940代 |
作品 | セーター |
編み姿勢 | 座位 |
編み方 | アメリカ式 |
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この写真は、ちょっと違った意図で引用しました。これはシェットランド女性がフェアアイルを編んでいる写真です。独特のニッティングベルトにとても長い編針を刺しています。どのように見えますか?私達は一見して、この手は死んでいると感じました。写真全体の雰囲気もちょっとおかしいのです。まず服装がシェットランドレース糸を使ったと思われる、素晴らしい透かし編みのセーターと、真新しい上等なウールのスカートを着ています。編んでいるのはモデルのように若く美しい女性です。毛糸玉はスカートの上の見える場所に置かれています。決定的なのは、左手の指が緩んでいて、単にその場所に置かれているだけに見えることです(右手も相当ぎごちないですが)。おそらくこれはヤラセでしょう。この写真は、「美しいフェアアイルセーターはこのように美しいシェットランド女性が心をこめて編みました」というようなパンフレットに使われたのかもしれません。意外にも編み物をする女性の姿というのは、旅行者の興味を引くものらしく、そのような写真が、絵葉書で販売されることもあったようです。したがって、歴史写真から技法の勉強をするときは、よく全体を観察する必要があります。(しかし、なぜこの本はわざわざ「技法」のページにこの写真を使ったのでしょう?他にもっといい写真はなかったんでしょうか?)
No. | オリジナル写真(部分) | 編針の位置 | 引用文献 | データ |
(8) |
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'Fisherman Knitting' pp15 Michael Harvey&
Rae Compton Shire Pulications Ltd
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撮影場所 | スコットランド |
撮影年月 | 1960頃か? |
作品 | ガーンジー |
編み姿勢 | 座位 |
編み方 | アメリカ式 |
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ガーンジーセーターの首部分を編んでいるところです。ちょうど針の編み始めのようです。右手の編み針が見えませんが手の角度から、おそらく脇の下に挟んでいるものと思われます。編み針はかなり長めです。このように脇の下に挟んだり、ニッティングベルトやシースを使う場合は編み針が長いことが多いのです。セーターなどの大きな作品を輪編みする場合、手先だけで編地を持ち上げていると腕が疲れてしまうため、このような工夫をしてきたのでしょう。輪編みの円周が大きいため、「休み針」は左手の小指の外を抜けています。そのためにもう一本の「休み針」は手に握られず編地にぶら下がる形になりますが、写真ではこの針がほぼ水平になるように構えています。
No. | オリジナル写真(部分) | 編針の位置 | 引用文献 | データ |
(9) |
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'Practical Knitting' pp2
Rae Compton Hamlyn Publishing 1981
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撮影場所 | イギリス |
撮影年月 | 不明 |
作品 | セーター |
編み姿勢 | 座位 |
編み方 | アメリカ式 |
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写真からは見えませんが、手の角度からみて、シースを使っているものと思われます。ガーンジーセーターの首の部分を編んでいるところです。膝の上に出来上がったセーターを敷き、首の部分を持ち上げているため、休み針の角度は水平に近くなっています。写真では休み針がお腹のに突き立つように見えますが、おそらくこれは写真の角度で、実際は体の右側に針先が出ていると思います。写真が不鮮明で分かりませんが、もう一本の「休み針」は左手の親指の根元を通っているのではないかと思います。写真では若い女性のようですが、指や編み針の配置を見ると相当編める手のようです。
No. | オリジナル写真(部分) | 編針の位置 | 引用文献 | データ |
(10) |
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'ウールの本' pp13
読売新聞社 1984
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撮影場所 | ペルー |
撮影年月 | 現代 |
作品 | セーター |
編み姿勢 | 立位 |
編み方 | ギリシャ式 |
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チチカカ湖・タキリ島の男性ニッターの写真です。おそらく土産物にして現金収入を得るためのセーターを編んでいるのではないかと思います。編み方は糸を首に掛ける独特の手法です(緑の線が糸の方向)。糸を首に掛けるために表編みより裏編みのほうが編みやすく、模様編みをするときもすべて裏編みで編んでいきます。つまり中表に編み上げます。この編み方をする理由の一つはゲージを堅くするためでしょう。首と腕の間の力で締め付けれた編地は針から外れると縮み、「鉄板」と形容されるほど堅くすることができます。また、ニッティングベルトと同様、針先から編地の重さを逃がす意味もあるのかもしれません。棒針を5本組み合わせた編み針の配置は理想的な形に組まれています。かなりの腕前のようですが、見るからに太い糸をこの腕で編めば、セーターなどたちどころに編みあがるでしょう。
No. | オリジナル写真(部分) | 編針の位置 | 引用文献 | データ |
(11) |
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'NHK手芸紀行(1)' pp46
NHK取材班
日本放送出版協会 1981
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撮影場所 | フェア島 |
撮影年月 | 現代 |
作品 | セーター |
編み姿勢 | 座位 |
編み方 | アメリカ式 |
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NHK世界手芸紀行で紹介されたフェア島の名人、アニーお婆さんの輪針の配置です。腰に、シェットランド独特のニッティングベルトを巻いています。驚くのは、セーターのような大きな輪編みで、休み針が両手とも中指と薬指の間を通って親指の付け根から上に抜けているという構えをしていることです。やってみるとわかりますが、この構えで針を交差させて編むとなると、編地は強く圧縮されて針先から編目がこぼれそうになるはずです。他の写真やテレビなどを見ているとどうも両手ともほとんど針を離れず、指先だけで手繰り寄せるようにして針に糸を巻きつけているようです。このため、指で針先近くの編目を常に押さえておけるように見えます(いや、あまり速すぎてほとんど見えませんが)。全般的に編み方が速い人はこのように編み地を圧縮して持つ傾向にあるようです。ビデオや本の記述を見ても、一針分を止まらず一気に編み上げるようですから、編地を伸ばしたり、それに伴って針を持ち替えたりしないようです。編地をどうさばけばこの構えができるか、正直よくわかりません。左手の人差し指と中指が針の下に潜って編地を持ち上げている形になっています。想像ですが、編む場所の模様を瞬間的にチェックしながら編むためのような気がします。
No. | オリジナル写真(部分) | 編針の位置 | 引用文献 | データ |
(12) |
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'NHK手芸紀行(1)' pp29
NHK取材班
日本放送出版協会 1981
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撮影場所 | フェア島 |
撮影年月 | 現代 |
作品 | セーター |
編み姿勢 | 座位 |
編み方 | アメリカ式 |
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アニーお婆さんの孫娘マリーさんの写真です。当然のことですが、構えが良く似ています。特に左手の指で編地を持ち上げるような手つきがそっくりです。椅子に深く腰掛けて、セーターを膝から胸の方へ掛けています。そのため、休み針が水平近くになっていますが、全体の構えは同じです。今、伝統編みのニッターはどんどんと高齢化しています。やがて滅んでしまう技法もでてくるでしょう。フェアアイルニットを伝承するこの手は世界中の期待を担っています。
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