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5.まとめ・あとがき

まとめとあとがき

以上で終わりです。長い文章にお付き合いいただきありがとうございました。これまでの内容をよく読んでいただければ「編む」という動作について、より深い知見が得られるものと思います。できればこの後、編み物が上手な人の手の動きを実際によく観察するか、テレビの編み物番組を録画してビデオで見てください。これまでなんとなく「上手」としか見ていなかった手の動きが違って見えるはずです。ただし、ビデオを見る場合は、講師の方が説明のためにゆっくり編んでいる場面はあまり参考になりません。これは説明のための動作です。講師が普通のスピードで編んでいるところをスローで見る必要があります。(残念ながらそのようなシーンはごくわずかしかありませんが)できればその動きを自分でもう一度組み立てなおしてみると、さらに勉強になるでしょう。また、当然ですがどのような動きがよいかを理解することは、その動きが出来ることとは別物です。したがって、ここで解説した知識があっても、実際に練習しなければ上手に編めるようになることは当然ながらありえません。駅のホームで、アーノルド・パーマーになった気分で傘を振り回しているだけではスコアは上がらないのです。練習しましょう。

これまでの説明の要点をまとめると次のようになります。

項目 間違ったイメージ 推奨する動作
最初に編目に入る右針の部位 針先 針の腹
右針先を編目に差す方向 左から右(横) 下から上(縦)
右針とからめる糸の角度 直角 鋭角
目から針を抜く方法 右針を引き出す 左編目をかぶせる

ずいぶんと違いますが、左のようなイメージを持っていても、練習しているうちに右の動きに変わっていくこともあるのだから、人間の柔軟性というか、いいかげんさというかは不思議です。手それ自体に思考力が備わっていて、長い目で見れば、不合理なものや非効率な動きは自然に淘汰されていくような気さえします。最近の進化論で人間は脳が大きくなったから手を使って道具を作るようになったのではなく、二足歩行によってまず両手が自由になり、それを使うことによって脳の発達が促されてきたという説があります。脳の肥大化より先に二足歩行が完成しているという化石証拠の発見によって、現在ではこちらの説の方が有力となっているそうです。どちらにしても、手による作業で多量の情報が脳に伝えれられ、そこで統合・抽象化された情報がまた手に伝わるという共同作業で人類は進化してきたのでしょう。私たちが編み物に不思議な郷愁や喜びを覚えるのは遠い 祖先から続いてきたそのような進化の先端にいるからかもしれません。
ともあれ、私という一匹の進化したサルにとって、この拙文が少しでも編み物文化に貢献できるならばそれにまさる喜びはないのです。

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