1.裏編みの難しさ
フランス式裏編みについて、本やホームページを見ているとたいてい一つの大事なことが書かれていないように思います。そのことから説明を始めたいのですが、大事なことというのは「裏編みは難しい」ということです。
なんだ、そんなこと書いても書かなくてもいいことではないか、と思う方もあると思いますが、人に何かを教える際、技術の難易度を計り、順序づけて伝えることは最も重要なことではないでしょうか。たとえばサッカーで、いきなりオーバーヘッドキックから教えるような人がいれば、それはお調子者ではあっても指導者とはいえません。テニスや卓球でもフォアハンドとバックハンドでは、フォアハンドから練習を始めます。またフォアハンドとバックハンドを同時に練習するのではなく、フォアハンドだけを練習し、ある程度マスターしてからバックハンドを練習するというのが普通です。素振りでフォアとバックを交互にしている人を見かけますが、あれはすでに両方をマスターしている人がやることで、右も左も分からない初心者がいきなり同じことをやったとしたら、正しいフォームをマスターするのにむしろ弊害があるように思います。初心者が闇雲にメリヤス編みに挑むのはこれと同じようなことだと思います。
しかも、ホームページを見ていると表編みより先に裏編みの説明から始まるものが見られます。これは、メリヤス編みの編地を編む場合には作り目→裏編み→表編みの順に編むことからのようですが、初めてこれを見たときは一瞬、まさかと思いました。もちろん、このようなホームページの編み方説明は、初心者への解説というよりはパフォーマンスに近いものですので、驚くほうがおかしいのかもしれませんがそれにしても、と思いました。これは一例に過ぎません。表編みと裏編みは二つの技法だという説明はあっても、それぞれの難易度をうかがわせるような表現にはなかなか出会えないのです。
私達は、フランス式裏編みは編み物の中で特に難しい技法だと考えています。編み物の難しい技法というと、「二目ゴム編み止め」のような技を思い浮かべたりするかもしれませんが、実は一番難しいのはメリヤス編みのようなシンプルな編み方です。表編みと裏編みという違った技法を使いつつ編目の揃った編地を作り出すのは大変で、書籍に載っているような作品の中にも、表編みと裏編みの強さが違って段に乱れがあるような編地を見つけることができます。美しいメリヤス編みを編むためには表編みの編み方も相当工夫が必要ですが、初心者の場合は裏編みに対する工夫のほうが大きな問題だと思います。
また、私達はフランス式裏編みは難しいだけではなく危険をはらんだ技法であるとも思っています。私は「フランス式表編み」のなかで、編み物に不自然な手の動きが必要なところはない、と説明したのですが、フランス式裏編みは編み物の技法のなかで最も手の動きが不自然になりやすい技法だと思います。
手が痛くなる、編目が揃わない、目が緩む、「フランス式裏編み」にはさまざまな悩みを抱えている方が多いようです。この事実も案外伝えられていません。ですから、悩みを抱えている人はそれが個人的な問題と思い、やがて自信を失うことにつながります。この文書がそのような悩みに対していくらかでも参考になれば幸いです。
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