3.裏編みのポイント
糸が掛からないのは針と糸の角度の問題
そもそも、裏編みで針に糸が掛からない根本原因は、針と糸の方向がほぼ同じで角度が浅いということにあります。実はそのままではどのように針先の動きを工夫しても決して編めないのです。(この単純な事実を確認するために長い時間がかかりました。)針と糸に角度をつける方法の一つは、前項で説明したように別の指で糸をかけたりして角度をつけることです。もう一つの方法は腕全体を回して角度をつける方法で、実は表編みはこの方法を使っています。表編みで針に糸をかけるときは、腕を外側にねじります。この場合は腕の回転に十分な余裕があるため、他の指を使う人という方法をとる人はそう多くありません。裏編みの場合、針に糸をかけようとすれば腕を反対の内側に回す必要がありますが、こちらの方は腕の可動範囲のほぼ限界点になり、工夫しないと必要な角度が出なくなってしまいます。これが裏編みが編みにくい原因です。
肘の角度と腕の回転
ここで前項で書いた、「肘の角度」の話になるのですが、それを確かめるために肘の角度と腕のひねりに関して簡単な実験をして見ましょう。10秒もかかりませんので、できれば実際に試して見てください。
まず、手をおなかの前で下図(1)のように合わせます。このとき両手の手の平が水平になるようにします。そのまま手を顔の前に持ち上げます。下図(2)のように自然に両手の平が内側に折れると思います。逆のことをやってみます。肘をまっすぐに伸ばします。そうするとよほど体の堅い人でない限り、下図(3)のように手の甲同士をつけることができるはずです。つまり、肘の角度を大きくすると、より深く腕を内側に回転させることができるということが分かります。
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(1)手の甲を水平に合わせる |
(2)手を顔の前に持ってくる |
(3)手の甲を合わせる |
ところが、編み物を始めたばかりの人は編目や針の先を凝視しようとしますから、自然に手が顔に近づき、下図のように悪戦苦闘するはめになります。このように手を顔の前まで持ち上げると肘の角度が非常に狭くなり、手首はほとんど内側に回りません。この図のように正面からみてはっきり左手の甲が見えるような腕の角度では他の指の助けを借りないかぎり、まず裏編みはできません。
裏編みを編むのに速く腕を動かさないと編めない理由は、おそらく速く回すことによって限界以上に腕を内側にねじるためでしょう。たとえば前屈で手が床に届かないほど体の堅い人でも反動をつければ結構曲がります。同じようにゆっくりとはねじれない角度でも勢いをつければ腕はかなり回ります。その一瞬に編むことでやっと裏編みができるものと思われます。しかし、これを何度もやっていれば必ず腕や肘に痛みがでてくるはずです。危険ですからこのような編み方は早急に直すべきです。
では、どうすればよいか?言うまでもなく、手を下げてお腹の前あたりで編むことです。または逆に椅子に深く腰掛け、上体を後ろに傾けます。こうすると肘掛に置いた手を上げても肘の角度は保てます。(肘を前に出しても肘の角度は保てますが、ちょっと苦しい姿勢になると思います。)どちらにしても目と手の距離が離れますので、初心者や近視の方には苦しいかもしれません。それには明るい照明で補うとよいでしょう。つまり目と手にある程度の距離があっても編目がよく見えるようにするのです。(上達すれば編目をほとんど見なくても編めるようになります。)
考えて見るとおへそのあたりで編む、というのも、照明を十分に、というのもすでに「表編み」で書いていたことばかりです。ただ、その意味の捉え方が十分ではなかったということです。編み物上級者はほぼ例外なく手の位置は下にありますし、安楽椅子に深く腰掛けたりするような姿勢をとっていることもあります。私はそれが上級者だからこそできること、つまり「十分条件」だと思っていましたが、今回の発見はむしろそれが編むために必要なこと、「必要条件」だということを意味しているように思います。択一的な言い方はよくないかもしれませんが、「上手くなったから手が下がった」のではなく「手を下げたから上手く編めるようになった」というのが真実に近いのではないかというように思います。(なお、これはあくまでもフランス式の場合でアメリカ式の場合はどうなのかまだ
良く分かっていません。しかしどちらにしても肘の角度をある程度保ったほうが腕の動きが楽になるような気がします。)
ポイントの整理
1.) 裏編みを編むためには左腕をほぼ限界近くまで内側に回す必要がある。このようにして針と糸との角度をつけない限り裏編みはできない。ただし限界以上に回してはいけない。
2.)左腕を裏編みに必要なだけ十分に回すには肘の角度をある程度大きくとらなければならない。
3.)肘の角度を大きくするためには、手を下げてお腹のあたりで編むとよい。
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