毛糸のバーゲンはいかがでしょうか?来年も編めるからと、買いすぎていませんか?以前ある店で、かなり年配の方が「もう、30着分くらい溜まってるの。でもいいの、お棺に入れてって言ってるの。」と話していました。オークションかどこかで、買い込み過ぎて押し入れいっぱいになった写真を見たこともあります。どうぞ、お互い買い過ぎには注意致しましょう。(笑)つい衝動買いしすぎて後悔してしまうようなときにとっておきの一冊「女殺借金地獄」(中村うさぎ,1997,角川書店)※をご紹介しましょう。住民税を滞納するような金欠でありながら、次々に買い物する姿が痛快、いや痛ましい?、いやうらやましい?
イタリア旅行に行ったら、現地ではエルメスのバッグが半値のため、ついに狂ってしまうところはこんな状態です。
私はスゥーッと息を吸い込むと、勇を鼓して店員に尋ねた。「ハ、ハ、ハウマッチ、世界まるごとハウマッチーーッ!?」
店員は、「うひゃひゃ、ニッポン人のカモが来たぜ!」と言わんばかりの微笑みを浮かべ、手元の電卓をタカタカと押すと、「ジャパニーズ・イェーン」と叫んで、電卓を差し出した。その数字は……ろくじゅーまん、であった!六〇万円のバッグ……してみると、日本で買ったら一二〇万か!?ちなみに帰国してから調べたら、ワニ革のコンスタンスの値段は一二二万円であった……すげぇ。
さすがの私も、「あうー」と唸って頭を抱えた。いくら半額だって、たかがハンドバッグに六〇万円も払うか?そばに付き添っていた母親は、「あんた……まさか買うんじゃないでしょーね」といった表情で、怯えたように私を見ている。実際、その時の私の顔は悪魔に乗り移られた、どっかの尊師のよーな顔であったに違いない。わーたーしーは、やってないー、なんちゃって。
私は店員の目の前で、悪魔と格闘した。ちょっとの間、店を出て、外の空気をスーハーと吸ってみたくらいである。例の口の悪い父親は、外の喫茶店でノンビリとコーヒーなぞ飲んでいる。私が六〇万円のバッグを買おうとしていると知ったら、たちまち機関銃のように罵るか、それとも私の代わりに鼻血ブーで倒れてしまうだろう。おーい、お父さーん。あなたの娘は、悪魔に取り憑かれてますよー。
そして、……読者の方々には、とうに予想がついていたと思うが、私は悪魔に敗北を喫した。鼻の穴をふくらませて店内に戻ると、「それ、ください」と言ってしまったのだ!
このあとも、帰りの飛行機で、パーサーにいいくるめられてファーストクラスに移ってしまい、30万円も使ったり、オストリッチのバーキンを買いそうになったり、豪快に散財します。これを読んでしまえば、10個980円の毛糸パックをつい5パック買ってしまったことなど、ティッシュを間違って2枚いっぺんに使ってしまったくらいの気になること、請け合いです。あ、でも気が大きくなりすぎて、ユザワヤのバーゲン毛糸をすべて買い占めたりしないように、ご注意ください。(笑)
※「女殺借金地獄」は、「だって、欲しいんだもん!」と改題して、角川文庫に収められています。