アリス・スターモアが明かす、編み物上達の秘訣とは!

国際社会の中で、日本人は自己主張をしない、何を考えているかわからないと言われることが多いという話はよく聞きます。これが事実がどうかは別として、海外のニッターの本を読むと、それぞれの作者の思い入れがびしびしと伝わってくる事が多いのに、日本のニット本からはほとんどそのような生々しい情動が感じられないのは事実ではないでしょうか。同じ日本人として淋しい気持ちがします。

ただ、自己主張と言っても単純に雄弁なことを意味するわけではありません。例えば、以前に取り上げたアリス・スターモアでも、決して雄弁というような印象はありません。ドイツ語と聞き間違うようなスコットランド訛りの英語で言葉を選びながら話す姿はむしろ訥弁というような印象さえあります。

しかし彼女は例えば、「Fair Isle without Fear」(恐くないフェアアイル)というビデオで、静かに自分の生まれた島を案内し、海岸をめぐり、牧場に入るとシェットランドシープの毛をひとつまみ手にとって、両手で静かにそれを引き伸ばします。シェットランドシープの毛は細い繊維となりながら驚くほど長く滑らかに伸びていきます。彼女がいつくしむかのように何度となくシェットランドシープの毛を無言で引き伸ばす姿からは、静かな中に力強いメッセージがはっきりと伝わってきて目が釘付けになってしまいます。

ビデオの中でアリス・スターモアはファアアイル技法を解説します。それも、きわめてゆったりとしたテンポです。日本の技法関係のビデオは短い時間に沢山のものを詰め込もうとして、やたらに忙しいのですが、このビデオは風景映像が間に挿入されたりして、日本人の感覚では極めてまどろっこしい展開です。しかし、同じ模様で配色を変えることよってどれほど違いがあるかを示すために、籠からとりだす「スウォッチ」(見本の編地)は目が覚めるように効果的で、美しく、宝石を見るように見入ってしまいます。

その後、彼女は実際に編針を使って編み方の技法を説明するのですが、その両手の指には、信じられないほど巨大な編みだこ!無言の迫力に圧倒されている間にも、淡々と技法の説明は続きます。

アリス・スターモアは終始笑顔で、おばあさんが孫に教えるような静かな声で説明するのですが、ビデオがいよいよ終わろうとするとき、突然カメラ目線で「それではあなたに最後の秘訣をお教えしましょう」と、これも静かに語ります。息を呑んでじっと聞き入っていると、彼女は不意にニコリと微笑み、こう言ったのです。

“Practice.” (練習です)

こちらの記事も人気です