カリスマ・ニッターEZ(2)

EZの名前を世に知らしめることになったのは、やはり”Knitting without Tears”(Fireside Books,1971)でしょう。今から30年前に出版され、過去一度も絶版になったことがなく、しかも現在でさえニット本の売れ筋のトップランクにあるというのは空前の偉業と言ってよいでしょう。この本は素晴らしい本で、私たちも初めて読んだときは感動しました。

「涙なしの編物」というタイトルを見れば、これが初心者向けの本ということは誰にもわかると思いますが、その内容は知恵とヒントが満載です。EZは、好き嫌いをはっきりさせると言われるアメリカ人のなかでもひときわ自分の意見・好悪を明確に述べるタイプのようで、それがウィットにとんだ文章に迫力を与えています。

私たちが驚いたのは、裏編みが苦手な人、そして「すくいとじ」が苦手な人が多い、という話の後で、じゃぁしなければよい、と言い出し、輪針で輪編みのセーターを編む事を主張します。しかし、”ゴム編みはどうするんだ?”と思っていたら、なんとゴム編み部分のないセーターが現れます。しかも、それがカッコイイ。しかし、”ゴム編みがないと裾がめくれないか?”と思っていたら、作り目から拾い目をして裏側にヘリを編み出すということを提案します。しかも、そこに名前やイニシャルを編み込んだらどうか、という魅力的な提案なのです。ゴム編みができる人でも、一つやってみたくなるではありませんか。

この本のもう一つの魅力は非常に率直な(に思える)記述が多いことで、子供の頃はアメリカ式で途中でフランス式に変えたが、自己流なのでほかの人と持ち方が違うとか、首から編んでいくセーターを編んでいたら、最後になって、使っていた糸ではゴム編みの弾力が出ないことが分かって絶体絶命とか、ほとんど終わり近くになってなわ編みの交差が逆だということがわかって…など、著名なニッターならまず書かないことがいっぱいでてきます。

しかし、私たちが最も驚いたのは、自分の子供たちのためにスキーセーターを編もうとして、ノルウェーの編物本で編んでみた、という部分です。プロのニッターでも本で編み方を勉強するのかというのも驚きですが(ゆっくり考えてみれば当然でしょうが)、ともかく読んでみましょう。

(前略)私は、古典的な「ユース」という模様から始めました。この模様は4段毎に白い段を編むものです。そして、この模様は内側で糸を保持し、ゆったりと渡さなければなりません。

すぐに二色の糸は恐ろしくもつれ合いました。なぜなら、私は新しい糸を常に古い糸の下から引き上げていたからです。これはすべての編物本の指示どおりでした。 私は自分で考えてみました。もし、こんな状況なら昔のノルウェーのニッターはミトンを一つ編んだだけで、編む事を放棄したにちがいないと。私は糸を撚り合わせることをやめて、糸を下からと上からと交互に引き上げてみました。そしてそれはうまくいったのです。

この後、EZは編物本がでたころはアーガイル模様が流行っていて、アーガイル模様の場合は確かに糸を常に下からとってからめ合わせる必要があるが、ノルウェーの編み込み模様はその必要がないにもかかわらず、こんな指示をしたのではないかと想像します。

この出来事は私を決定的に勇気づけました。私は、書籍がすべて正しいわけではないことを知りました。書籍は沢山の知識が記述されています。しかしそれは全てではありません。書籍に書いてあることは、この本を含めて、決して鵜呑みにしてはいけません。もしある本が今のあなたの状況に合わないと思ったら、それは無視して、ほかを探しなさい。編物には様々な方法がありますが、どれも間違っているというものはありません。ただ、時としてうまく合わないという状況があるだけです。

編物には全く正しいという方法もなければ、全く間違っているという方法もないのです。

このあと、編物には「間違い」というのもない、目が落ちたとしても、目がねじれたとしても、ちゃんとそういうパターンがあるから間違いとは言えない、と書きます。ただ、糸を割るというパターンはないから、もし間違いがあるとすればそれだけだろうと。

EZの本はこれほど古く、これほど魅力的なのですが、日本語への翻訳はされていないようです。私たちにはこれが不思議でたまらないような気になっています。紹介されている作品も30年前とはとても思えないようなデザインで、今でも編んでみたいと思う人がいるはずなのに…。

また長くなりました。最後に、この本で紹介されているカーディガンについて書きましょう。言うまでもなく、それは「ガーター編み」のカーディガンです。(なぜだか、もうわかりますよね?)そして、それは素晴らしいデザインです。

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