カリスマ・ニッターEZ(1)

アメリカのカリスマニッター、EZことエリザベス・ジマーマンについては以前とりあげました。実のところ、なぜEZがそんなにも崇拝されるのか、何がアメリカ人の心を捉えるのか、日本人の私たちには、ちょっと測りかねる部分があります。もちろん彼女の魅力はアメリカ人ではない私たちにも、かなりの程度伝わってきます。’Elizabeth Zimmermann’s Knitter’s Almanac'(1974,Dover Publications,Inc) 「エリザベスジマーマンの編物カレンダー」から7月の作品のところを開くとこのような文章が目に入ります。

7月は旅行の月。
私達のような年寄り夫婦には関係ないですけどね。交通量の一部になるなんて ゴメンですよ。そんなのは統計の数字だけで十分。私達は我が家の落ち着いた庭に ゆっくりと座っていますよ。 私達にとっては旅行なんて、大通りを行く車のヒュ−ンって言う音と同じこと。 冷徹な北や、楽しんで疲れ果てる南に行く家族を乗せた車のヒュ−ンって音とね。 喧騒が薄らいで、蚊トンボどもが撤退するまでとなると、ずいぶん夜遅くまで銃を 乱射したくなるのをガマンしなきゃいけないわねぇ。

もしあなたがどうしても例年の旅行に行くと言うのなら、必ず編む物を持っていきなさい。 何かが必要ですよ。これから先の二週間、もう考えられるかぎりの凶悪な状況と立ち向かって、 興奮し通しの気持ちを正気に戻してくれるものが。

ショールはどう?

笑わないで。ショールは旅行先で編むのに、完璧なものですよ。これは私が何度となく自分で 確かめたことです。 輪針に通した細いウールの丸いショールは、狭い場所や、あてなく待っているとき、状況が はっきりしないときの最高の伴侶です。 まず、細いウールはほとんどかさばらないのに、たっぷりと編みごたえがあります。 次に、輪針はよほどのことがなければ無くしません。渾身の力をこめて引き抜いて、投げ捨ててしまう とかでなければね。最悪の事態といっても、何目か針からこぼれるくらい(すぐ戻せます)でしょう。 あなたは今、こう言いたいのをこらえて、真剣に息苦しいんじゃないかしらね。

「でもショールは難しいでしょ?」

お嬢さん、そんなことないんですよ。私はあなたのために真ん中から編むショールを用意 しました。ほとんどパターンらしきものはありません、ただ6周で一つの模様、それでおしまい。 模様は次から次へと現われて、(前回の模様によって)少しずつ目数が増えていきます。 終わりが近づくにつれて、あなたの心は徐々にときほぐれてきて、そして 気使いを忘れ、安らぎの気持ちがどんどん広がってきます。あなたは全く頭を使う必要が ない、一周が数百目という段をほとんど無限に編んでいくことになります。 そしてあなたは一つの家宝を完成させるでしょう。ちょっと、ちょっと、ちゃんと聞きなさい。 だから…….

拙い訳文では原文の魅力の十分の一もお伝えできないでしょうが、それでもEZがウィットに富んだ楽しいお婆さんであることはなんとなく分かってもらえるのではないでしょうか。特に、「主に書籍で編物を覚えた」世代にとっては、EZの文章は本当のお婆さんが手を取って指導してくれるような優しさを感じるもののようです。つまり、EZは大袈裟に言えばアメリカのニッター全体のグランドマザーとしての役割を果たしている部分があるように思えます。しかし、EZはそのような「編物好きの優しいお婆さん」というような輪郭の分かりやすい人物ではありません。その姿は簡単には捉えきれないほど入り組んでいて、時には不気味さを感じることさえあるのですが、今日はもう長くなりました。彼女の全く別の顔については日を改めて書きたいと思います。

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