子供のころの童話と創作の悲哀

今の子供達はカラフルな絵本を買ってもらいますが、絵本は結構高いもので、昔は子供図書館でよむ事が多かったように思います。たた夫は小学生の頃から一冊五円の文庫本を読まされていたようです。文庫の中にもちゃんと童話はあるのですが、当然絵はありません。ですから、たた夫はときどき自分で絵を描いていました。(たたは、教科書やテストの答案用紙の裏に絵を描いて、いつも先生に怒られていました〜。(笑))う〜ん。こちらのほうが情操教育にいいかもしれませんよ。いかがでしょう?
文庫に収録された童話の一つに、「小川未明童話集」(新潮文庫)があります。この中にある一作「赤いろうそくと人魚」は心に染みる作品です。普通の童話では人魚の住む世界は南の海です。しかしこの童話で人魚は北の冷たい海に住んでいるのです。これだけでも暗く冷たい雰囲気ですが、この人魚は身ごもっており、子供をこんな寂しいところで育てるのは不憫だからと人間に拾ってもらえるように子供を捨てるのです。幸い親切な老夫婦に拾われてその女の子はすくすくと育つのですが、その少女が絵を描いたろうそくをお宮にあげると、決して船が転覆しないということがうわさになり、やがて少女が人魚であることがばれてしまいます。ある日香具師が老夫婦の前に現れて、人魚を大金で買い取ります。老夫婦は金に目が眩んで優しい気持ちを忘れてしまいます。最後の日、少女がいつものとおりろうそくに絵を描いているところに香具師がきて強引に連れ去ろうとします。少女は絵を完成させることができず、真っ赤に塗りつぶしたろうそくを残していきます。その後、この赤いろうそくを見て事実を悟った母人魚によって、少女を運ぶ船は沈没、その後海は荒れて難破が絶えず、町はほろんでしまう…。
このような内容ですが、今のお母さん方にとってはどうでしょう?子供に読ませたい話でしょうか?もしかしたら暗すぎる話として好まれないかもしれませんが、私たちの子供心にこの童話は焼きついて離れません。大人になってから改めて文庫本を買い求めて読み直してみても、昔の感動がまったく変わらずよみがえります。
ただ一つだけ、大人になって分かったことは、この老夫婦がお金と引き換えにした少女とは「創作する純粋な心」の象徴だったのだろう、ということです。年齢を重ねた分だけ、ちょっと理解が深まったかもしれません。
しかしその一方で大人になった私たちは、それほど大金を積んでも人が欲しがるほどのセーターを一着は作ってみたいものだ、という欲望がわいてくるのを感じずにはいられないのですが。

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