カリスマ・ニッターEZ(3)

Elizabeth Zimmermann
1910年ロンドン郊外に生まれる。ドイツ・ミュンヘンおよびスイス・ローザンヌの芸術学校に通う。1937年アメリカに移住。1999年11月30日没。

EZのもうひとつの顔は利に長けた商売人です。すでに、1959年に出版社を設立しているところにも、ビジネスに対する積極性が感じられます。最もそのビジネス的性格が現れたエピソードは、米ヴォーグ誌にアランセーターを発表したとき、デザイン料を無料にする見返りに、その素材の提供先として自分のショップの連絡先を掲載したというものではないかと思います。これによって、ショップは大繁盛したということですから、先を見越す力・交渉力はたいしたものです。とにかく、アメリカでアランセーターが紹介されたのはこれが最初だっと言いますから、アメリカのニッターがどれほど熱中したかは想像に難くありません。

また、EZといえば輪針というほど、そのころ一般的でなかった輪針に対して積極的だったのですが、同時に使いやすい輪針を入荷して大々的に販売もしていました。

EZがアメリカで広く知られるきっかけになったのは、テレビ番組でした。友人の求めに応じて編物について語るという番組に出演したところ大評判となり、シリーズ化されました。これについても、EZは後にテレビ局ではなく自ら番組を制作しビデオを発売しています。このようなエピソードを追うと、常に抜け目がないという印象があります。EZはウィスコンシンの田舎で、周りを樹に囲まれた、廃校に静かな隠匿生活をしているお婆さん、というイメージがあります。これは、事実に基づいているのですが、このノスタルジックな印象をEZは番組中で、最大限に活用したようです。テレビ局には、家の居間・暖炉・飼い猫に至るまで再現されたEZの自宅のセットが作られましたし、後には実際に利用しているニッティングバスケットまで運びこまれたということです。

例えば、日本では、藁葺き屋根の家・小鮒の釣れる小川・水車・里山、といったような情景は、そのような場所に生まれたはずのない都会人でさえも懐かしい気持ちにさせる原風景ともいえる光景です。EZが提供したのは、Good Old Days を思い起こさせる原風景の中で、静かに編物を編むお婆さんという、アメリカ人全体のノスタルジーに深く訴えるイメージだったのではないかと思われます。このような風景の中から、物静かに語りかけてくる知的で美しいお婆さんの言葉に抗うことはそもそも難しかったのではないかと思われるほど、これはツボをついたイメージと言えるでしょう。

つまり、EZは自然にアメリカ人のグランドマザーになったのではなく、自ら意識してその立場に立とうとしたのではないかという気がします。アメリカ大統領は、アメリカ人全体の父性を代表していると言いますから、そのような行為自体は責められるべきではなく、むしろ晴れがましいと言っていいのかもわかりません。ただ、そこに商売が絡んでくるとき、なにかすっきりしないものを感じるのは、私たちが日本人だからなのでしょうか。

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