サンカ手袋のテキストパターンを発見

左の写真のしわくちゃの紙切れですが、何に見えますか?手元を見ていただくと… そう、サンカ手袋です。サンカ手袋は私達のホームページの最も初期のコンテンツの一つですが、それ以降新しい情報はありませんでした。しかし、今回とうとうテキストパターンを発見しました。写真のパターンはA5くらいの大きさで、スーパーで配っている料理カードのようなペラペラの紙切れです。紙全体も一度完全にしわくちゃになったものを伸ばしたようなになっており、ゴミ箱から拾い上げたものかと疑いたくなるものです。しかし6ページのこの紙を開くと、中にはサンカ手袋の完全なテキストパターンが記述されていました!細部までは読んでいませんが、私達が解読したサンカパターンと微妙に違う部分があります。詳細は、中身をよく解読してからまたアップしますが、使われている針はなんと1.25ミリ!です。日本人より大きく編むはずなのにこの針の細さは恐れ入りました、という感じです。実際、これくらいの細さで緩く編む方が減目の細工がしやすくなることは事実でしょう。

このパターンの正体ははっきりしませんが、入手経路やパターンの書き方の特徴などを総合して考えると、19世紀にまでは遡らず、20世紀の始め頃、おそらく1930年以前のものと思われます。印刷は後ろにMade and Printed in Great Britain とありますのでイギリスに間違いありません。このパターンが果たしてサンカの伝統的な編み方かということですが、私達の考えではまず間違いないと思います。というのは、(1)写真で見る限り、この手袋は完全なデュークパターンのサンカ手袋であること、(2)サンカ以外の地方でこの手袋が編まれていたという事実はないこと、(3)第三者がこの編み方を考え出したり、解析したりするのは大変であること、(4)発行元がイギリスであり、20世紀初頭にはまだ編める人はいたであろうこと、を考えると、あえてアレンジ作品を発行する必要はなく、表紙にもSANQUHAR GLOVES と A Traditional Scottish Style という記述があることからもこれは伝統的なサンカ手袋の編み方のパターンと考えて、まず間違いないでしょう。

200212012.jpgでは、なぜこのようなレアな手袋のパターンが発行されたか?その鍵は表紙写真にありそうです。非常に美形のモデルを使っていますが、サンカ手袋の手には双眼鏡が握られていて、写真下部には白い木製のバーがあり、それにもたれかかっているようなポーズをとっています。おそらく、これは競馬場ということだと思います。日本と違い、イギリスの競馬というのは「紳士のスポーツ」で、現在でさえ上流階級の社交場となっています。なにしろ、イギリス貴族が自分達の馬を競争させていたのが競馬の発祥だというのですから、年季が違います。今でも貴族の末裔が自分の馬に自らまたがって出場することがあるそうです。そのようなハイソな場所で、双眼鏡を手に競走馬を眺めるという場面を考えると、いかにも「手袋」というのがおしゃれのポイントとして重要になってきそうです。あくまでも想像ですが、やはり人と違った手袋をしてみたい、そういうものを見せびらかしたいというのは心情ではないかと思います。そういう場面となれば、どうしてもここはサンカ手袋の出番、ということになるのではないでしょうか。サンカ手袋の手を挙げ、双眼鏡を構えて自分の夫が乗った競走馬を追う奥様、う〜ん、これは決まりすぎです〜。 ともあれ、私達日本人の心をもときめかせるサンカ手袋は、バクルー伯爵(デューク)だけではなく、20世紀のイギリス上流社会においてもその価値をみとめられていたことは間違いありません。 まぁ、この手袋の人を魅了する力を考えれば、至極当然のことでしょうけどね。

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