魅惑のヴィンテージニット

img5_vintage今日の話は、フェアアイルとも関係するのだが、カテゴリは「ヴィンテージニット」とした。ヴィンテージニットとは、いつ頃から言われだしたのかはっきりしないが、左記のVintage Knitsが発売された2002年には一般的な言葉として通用していた。

vintage とは、もともとワインの製造年の意味だが、やがて古くて良いものの形容詞に変化した。私達はあまり詳しいほうではないのだが、いかにオールドヴィンテージといっても100年以上前のものはあまりない。

要するに、ヴィンテージニットとは、ぼんやりと、ここ100年以内の出来がよいニットを指すと考えてよいようなのだ。左記の本は、1940年代〜1950年代のものを取り上げている。確かにこの頃のニットには力がある。日本がポツダム宣言を受諾したのが、1945年8月15日だから、アメリカ・イギリスなどの戦勝国は長い戦争の圧迫の後に訪れた開放感の時代であったのだろう。日本が塗炭の苦しみにあえいでいた頃に、これほどまでのニットデザインが出回っていたのかと思うとなんとも複雑な気持ちになるほどだ。

私達にとって、ヴィンテージの当たり年は、30年代〜50年代だ。この頃の作品は本当にたまらない。今の日本のニットデザインが最高のデザインとなんとなく思っている人は、この頃の作品の完成度に打ちのめされるかもしれないとさえ思う。今後、「ヴィンテージ」カテゴリでは、ゆっくりオールドヴィンテージニットの魅力を紹介していきたいと思っている。

img6_20051103-04最初に紹介したいのは、前回のフェアアイルの話を引き継いで、Scottish Fair Isles パターンだ。このパターンは、前回話したようにフェアアイルというジャンルを狭く考えれば、許せないと思うような作品ばかりだ。表紙からして半袖ニットだ。まったく伝統に反している。しかし、編み込み模様ならなんでもフェアアイルとよんで、ええじゃないか、と心を広く持って見ると素晴らしい作品ぞろいだ。

このパターンのタイトルは「スコットランドのフェアアイル」となっている。フェア島はスコットランドの領有でもあるから、一読したところでは「北海道の千島」とか「長崎県の五島」という意味に読めるが、前回のブログを読んだ方の中には、ISLESの最後の S を見逃さなかった人もいるかもしれない。そう複数形だ。このフェアアイルは固有名詞ではなく普通名詞になっている。つまり、フェア島ではなく「いわゆるフェアアイル作品」という意味である。全部を通じて意訳すれば「スコットランドの編込作品集」である。

作品は、スコットランド地方の名前にちなんだ作品名となっている。しかし、これもその地方の伝統模様を使ったというわけではないだろう。あくまでもこれらの地名を着想としたか、単に借用しただけのように思える。

img7_20051103-01一番に注目したのは、左の作品だ。作品名は、DumFriesである。そう、サンカ手袋のサンカがあるダムフリーシャー州の名前がつけられている。よく見ると、サンカ手袋で使われるミッジ・アンド・フライを分解したようなモチーフとなっている。偶然だろうか?それとも、やはりサンカのイメージを借用したのだろうか?全く分からない。しかし、作品全体の感じはサンカのようなクラシックな雰囲気とは似ても似つかないイメージだ。パターンを読むと、使われている色はWhite, Scarlet, Navy の3色となっている。真っ白な地色にネイビーの縁取りとミッジ・アンド・フライ模様、それに朱色の薔薇模様が裾・袖・ヨークに配されているようだ。ウエッジウッドの陶器を思わせるフェミニンで清楚なフェアアイルカーディガンだ。袖付けはドロップショルダーのようだが、肩パッドでも入っているのか綺麗にパターンが水平になっている。袖付け部分でパターンをうまく繋げているのはお見事。日本人にも似合いそうなデザインだから、クラシックなロングスカートとあわせれば、ちょっといいところのお嬢様に見えるかもしれない。

このカーディガンは、細身でウェストシェイプもしっかりと取っているし、素肌に着るもののようだから、糸も伝統に逆らって、シェットランドヤーンよりは、細めのメリノで編みたいところか。インストラクションを見ると、指定糸は、伝説のPatons Beehiveで、Fingering,3Ply となっている。パピーの3Plyあたりで代用可能か。伝統のフェアアイルカーディガンとこのヴィンテージフェアアイルのどちらに軍配を上げるかは読書自身の判断にゆだねよう。

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