フェアアイルの伝説(2)

KnittingbyTheFireside フェアアイルの起源に関しては、アルマダ海戦によりスペインからもたらされたという説が最も有名だろう。アルマダの海戦は、日本人にはなじみが薄いが、イギリスにとっては、スペインから海上覇権を奪い取った歴史的な海戦であり、日本の元寇などよりもはるかに重大な歴史の分岐点となった戦闘だ。

戦術の世界史(http://www.k2.dion.ne.jp/~tactic/armada.html デッドリンク)というホームページを見ると、130隻でイギリス侵攻した当時無敵を誇るスペイン艦隊は結局66隻しか帰港できず、戦死者2万名近くを出した。海戦場所から見ると、フェア島はかなり北になるが、錨を失った船が漂着する可能性は十分あるようだ。

アルマダ伝説とは、この海戦で難破したスペイン兵がフェア島に漂着し、島民にフェアアイルニットを伝えたというもので、いかにも眉唾な雰囲気だが、今でも結構信じられているらしく、事実のように記している本もある。しかし、これを史実とする証拠は全くない。アルマダ海戦は1588年だから、事実だとすればフェアアイルの誕生は16世紀終わりの出来事になる。

次にフェアアイルの起源を語る上でよく出てくるものは、ガニスターマンだ。ガニスターマンとは、1951年にシェットランド島のガニスターで発掘された男性の屍体のことで、多色編み込みのコインケースを持っていたことから、フェアアイルの起源に関連付けられている。コインケースには17世紀のコインが入っていたことから、17世紀にはフェアアイルニットが存在したのではないかという説がある。

「海の男たちのセーター」(とみたのり子著 日本ヴォーグ社1990)によると、とみた氏はアルマダ海戦説を伝説と退けつつ、「十七世紀後半には、こうした多色使いの編込み技法が、シェットランドに存在していたことが立証されたわけである。」と記述している。この記述は誤解を招きかねない。「編込み技法が、シェットランドに存在」が立証されたというのであれば、このコインケースがシェットランド製という意味にとるのが自然だからだ。しかし、ガニスターマンがシェットランド人であるという確証がないことは、「むしろ彼自身がそういったヨーロッパ大陸からの人であることも、十分考えられる。」と、とみた氏自身も書いてあるとおりで、このコインケースがシェットランドで作られた証拠はまったくない。シェットランドの編物史である、Knitting by the Fireside and on the Hillside (Linda G. Frayer 1995) でも、下記の引用のとおり、シェットランドで編まれたものかどうかは、不明としている。はっきり言えることは17世紀の終わりに、シェットランドにすでに高度に洗練された多色編み込みが紹介されていたことだと書いてあるが、まさにそのとおりであろう。

lt is not possible to tell if these garments were knitted in Shetland − the presence of foreign coins in the man’s purse proves nothing about his origin but it does prove categorically that knitting had reached a high degree of sophistication and skill by the end of the seventeenth century and was seen in Shetland.

フェアアイルの起源についてのこれ以外の説については次回以降に紹介したい。

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