デジタル写真を失わないために

たた&たた夫の編物入門」が生まれたのは、2000年9月25日だから、今年で丸16年になろうとしている。開設当初のインターネット環境は、2016年の現在とは大きく違っていた。

画像は嫌われ者

ホームページ作成時に、とにかく注意したのが画像の扱いだった。画像は文字とは比較にならないほどサイズが大きい。回線が遅い時代だったので、ホームページに画像を置くと表示が非常に遅くなり、それを嫌う人が大勢いた。「ヤフージャパンのトップページでも○○キロバイトだ。それを見習え」のように、意見する人もいた。しかし、編み物サイトで、画像を掲載しないわけにもいかない。

sum-piglet初めて作成したページに掲載したのが左の画像だ。100×75ピクセル、わずか 2239 バイトである。それでもこの画像1枚で2000文字分か、と掲載をためらったほどだ。当時の電話回線の速度は、たしか2400bps 〜だったので、1秒間に240バイト前後しか送信できない。左の画像は表示に10秒かかることになる。画像が上から、じわ〜っと下に向かって表示されていくのを待って、それが下らない画像だったら怒られるのではないかと思った。万一、従量課金制の人がいれば、画像のサイズは見る人が払う金額に比例する。そんなわけで、ヒヤヒヤしながらホームページに画像を載せていたので、現在でも初期コンテンツの画像はサムネイルのように小さい。

スマホ対応を始める

2015年11月22日からサイトのスマートフォン版を作成しはじめ、主要なコンテンツはだいたいスマートフォンで読めるくらいにはなった(まだ不十分だが)ので、2016年2月からブログの移行にとりかかった。このとき、スマホという小さい画面には、どれくらいの画像サイズを目安にすればいいかを検索している最中に、Facebookのベストプラクティスを見て、腰を抜かしそうになった。

Use images that are at least 1200 x 630 pixels for the best display on high resolution devices.

1200 x 630 ピクセル! 豚の編みぐるみ画像の、縦横それぞれ10倍、つまり面積は100倍だ。しかもそれが at least(最低でも)?ただのアイキャッチ画像に、なんとまあ豪勢な!今まで280円の牛丼でも贅沢だと言われないかとビクビクしていたビンボー人が、「ま、今の時代、昼食代の目安は最低でも3万くらいかな?」みたいな文句を聞かされたようなものだ。腰を抜かす、という表現も大げさではないとわかってもらえるだろう。

最初はみんな最新

私たちが当時使っていたデジカメは、初代 IXY Digital だ。カメラの正面にデカデカと210万画素だ!さがりおろう!と刻印してある2000年5月発売の最新鋭コンパクトデジカメだ。現在の iPhone6s は、このカメラの四分の一くらいの薄さだが、画素数は1200万画素で6倍もある。写真を撮ってみたら、4032 x 3024 というデカイ画像ができる。こんなのをそのままインスタに送り込むデジタル貴族に、 1200 x 630 くらいでガタガタ言うな、そこの平民!と言われたら、額を地につけるくらいしかできない。

だが、発売当時のIXY Digital は、正価74,800円。価格だけは iPhone にそうひけをとらない。予備バッテリーや充電器などを含めて8万以上も払って最新機種を買っておいたおかげで、残された画像は、1600 x 1200 だ。これなら、1200 x 630 の画像を作ることも可能だ…と思ったら、これが事件の始まりだったのだ。

デジタル画像のゆくえ

IXY Digital についていた「コンパクトフラッシュメモリー」は8M。一方写真の方は 、だいたい 一枚あたり、0.7M程度。つまり、11枚撮影したらメモリはいっぱいになってしまう。しつこく iPhone6s と比べると、こいつは64000M もある。ほとんど一万倍かよ!さすがに8Mではきついので、やむを得ず32Mの当時の大容量コンパクトフラッシュメモリーを買い足した。とはいえ、メモリーカードは、一時保存にすぎず、それほどの枚数は残せない。

結局、画像はすべてパソコンに移動するわけだが、パソコンのディスク容量も、この頃はそう大きくはない。しかもパソコンの寿命は短い。Windows95 → WindowsXP → Windows7 → Windows8.1 → Macbook Pro と、16年間に何回も買い換えてきた。幸い、写真ファイルはサーバーに保存し、毎日バックアップが動いていた。しかし、主サーバーの空き容量が減ってきたため、古い写真画像は全部削除した。もちろん、サブのバックアップサーバーが2台あり、写真はそこに保存していた。この2台のバックアップサーバーはやがてファンが爆音をたて始め、うるさいので、一台ずつ電源を落とされた。

2016年の今年、このホコリまみれのバックアップサーバーを整理し、中に入っていたディスクを取り出して保管することにした。サーバー本体はいずれ捨てようと、ゴミ袋に入れた。

写真画像は、色々なディスクを転々と移動してきたが、最終的にはこのディスクの中にある。これさえあれば、ホームページにアップロードした縮小画像の元の写真を取り出して、1200 x 630 というバカデカイ画像を作り出せる。平民から下級貴族になってやる!と思ったそのとき、事件は起こった。

ディスクインターフェイス

sata-ide

ハードディスクのコネクタが現在使われているものと全く違っていたのだ。完全に忘れていた。上の画像にあるように、ハードディスクそのものはそっくりなので、いざ接続しようとして気づいたときに、どれほどゾッとしたか。データを読もうにも接続できないのだからお手上げだ。これが接続できる(IDE)パソコンなど、もう10年くらい前に処分している。

だが、まだ手はあると思った。変換基盤をつければ楽勝…いや、電源も形状が違う。四苦八苦しながら接続し、DVDから起動して、ディスクの中身を取り出そうとしたが、パソコンは変換基盤経由のディスクを認識しなかった。

その上、ディスクはWindows や Mac ではそのまま読めないフォーマットだった。最初は余裕を持っていたが、だんだん追いつめられてくる。まさか、このためだけに、骨董品のパソコンを買うのか?いや、待て。それを買ったところで、今はMacbook だ。接続するディスプレイがない。アナログのディスプレイコードもない。ないものだらけだ。

最後に幸運の女神が微笑む

nas幸運だったのは、まだ燃えないゴミの日前で、サブサーバーの本体が残っていたことだ。かなり荒っぽく扱ったが、もしかするとまだ動くかもしれない。本体は一部割れていたが、基盤を組み立て直し、ディスクをつないで、LANに接続し、裸のまま電源ボタンを押した。古いファンがギュルギュルッと音を立てて、ディスクが回転するヒューン、カカッという音がした。祈るような気持ちで1分ほど待った後、確かこれだったと思うアドレスに ping を飛ばすと応答あり!ssh で接続するとプロンプトが出てきた。最高の幸運は、記憶していたroot のパスワードが正しかったことだ。ついに、ディスク内を見ることができた。エンコードの違いから日本語のファイル名は化けているが、写真ファイルは全部半角だから影響ない。深い階層に残っていたフォルダを丸ごと scp で転送すると、想像より短い時間であっさりと16年前の全写真がローカルフォルダに取り出せた。

実は他人の同じ失敗を笑っていた

まったく間一髪である。幸運に恵まれたとはいえ、ある程度のITノウハウがなければ、おそらく写真は取り出せなかっただろう。非常に苦く思い出したのは、昔「インターネットはからっぽの洞窟」か「カッコウはコンピュータに卵を産む」という本を読んだとき、著者は天文学者のために異常なほどデータの保全に気を使っていたのに、気がつくと紙テーブリーダーもなくなり、オープンリールの磁気テープも読めなくなっていた、というようなことが書いてあったことだ。読んだときは、そんな古くさいものがいつまでもあるわけがないだろう、と思って笑っていた。

だが、今自分の身にまさに同じことが降り掛かったのだ。「今ごろ、普通のパソコンでIDEディスクが読めると思っている方がおかしい」と言われたら返す言葉もないが、事件はいきなり起きたのではなく、静かに時を刻んでいた。そして、最も必要とされる場面で牙をむく。だから、この事件を笑って読み飛ばすのではなく、他山の石としてほしい。

次はあなたの写真の番かもしれない

あなたの写真は大丈夫だろうか?SDメモリやUSBメモリに入っている?それは何年消えないだろうか?DVD-R に保存してある?16年後のパソコンは全部スーパーブルーレイで、DVD-R など読めないかもしれない。いや、パソコンが時代遅れになり、タブレットしかなくなっているなら、そのディスクをどうやって読むのか?

iCloudやDropboxに置いてあるから安心だ?Apple は何度も倒産しかけた会社だ。Dropbox が2032年に健在か、誰が保証してくれるだろう。あなたが倒れたら、誰がそこから写真をダウンロードできるだろうか?

よく考えたら、デジカメの画像は非常に揮発しやすい情報だ。100年以上前の白黒写真が今でも見られるのと比べると、ものすごく不安定だ。しかも、失うときは全滅する恐れがある。メモリーカードをアルバムのように保存しておく、というような習慣を広めようとする人もいるらしいが、絶対にやめておいた方がいいと思う。現時点では、USBハードディスクとクラウドの二重バックアップが現実的だと思うが、USBがなくなる可能性もクラウドがある日アクセス不能になる可能性もある。USBハードディスクを接続しっぱなしだと、ウィルスや落雷やOSの暴走で全滅する可能性もある。

具体的にどうするか

  1. パソコンを買い換える前に、そのパソコンでしか読めない情報がないか気をつけよう。
  2. OSをアップデートする前に、そのOSでしか読めないデータがないか気をつけよう。
  3. データが読めることを定期的にチェックし、コピーしておこう。
  4. パスワードは、どこか読まれない場所にでも、メモしておこう。

まあ、いずれも言うのはたやすく、なかなか実行しにくいことだが、失った写真は二度とかえらない。本当に確実なのは、大事な写真は印画しておくことだと思う。せめて人生の節目のイベントの写真だけでも、面倒がらずに印画してアルバムに整理する。この手間が報われる事態はあまり想像したくないが、おそらく交通事故にあうほど低い確率ではないだろう。

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