思わぬ喪失

写真がなくなってもいいじゃないか

デジカメ写真が失われやすいという話を前回書いたのだが、そんなことを気にするのはバカバカしいと思う人もいるかもしれない。写真の保管なんか神経質に気をくばらなくてもいい、消えたら消えたときのこと、昔の思い出にしばられていてどうする、前を向いて行こうぜ、ポジティブ!ポジティブ!そういう考え方もあるだろう。実際、アルバムに整理しきれず箱に詰め込んでいた、アナログ時代の写真を取り出してみたら、とっておくほどのものはなく、まとめて捨てたという人もいるかもしれない。

考え方は人それぞれだから、ウェディングドレスを押し入れの奥にしまっておこうが、捨てようが、他人が口を出す話ではない。ただ、親が物を捨てられないタイプだと、実家の片付けの問題に悩む人は多いだろう。私たちも、ミニマリスト、とまではいかずとも、なるべく不必要なものは処分しようと心がけている。

デッドリンク

今回、2000年からのブログを再構築していく際、そこに貼られていたリンクをひとつずつ確認していく作業を行った。16年もたっているので当然だが、古い記事のリンクほど、よく切れている。英語で「空きドメイン売ります」と書かれたページに飛ばされたりもする。そのリンクをどうするか悩んだが、元から存在しなかったかのように、跡形もなく消してしまうのは忍びない。テキストに戻し「デッドリンク」という文字を添えることにした。記事をひとつずつコピー&ペーストしながら、リンクを踏むたびに「デッドリンク」「デッドリンク」と続くと、まるで墓標を立てているようで、気分のいいものではない。

これらのサイトは、16年前にわざわざリンクしたとはいえ、もちろん作成にかかわったわけではない。この整理の時点まで、なくなっていたことにさえ気づかなかったのだ。自分のホームページが生まれた頃のサイトがデッドリンクになっていたところで、他のサイトにはサイトなりの事情があるだけだ。むしろ、ここまで長い間デッドリンクを放置していたことの方が恥ずかしい。今回は昔のリンクをまとめて整理する機会ができて、実にさっぱりした。このすがすがしさが、面倒な整理をしたご褒美だろう。


ペットロスを経験した方、この先注意。

捨て犬と男の子と母親

むかし、あるところにひとりの男の子がいた。名前はわからない。ある日、その子供は汚い子犬を拾ってきた。母親は捨ててこいと言うが、子供は自分が世話をするから飼わせてくれとせがみ、母親は折れる。しかし、子供はすぐに犬に飽き、結局母が世話をすることになる。汚い雑種で、食い意地が張っていて、けっこうずるい性格、まったく可愛くない。夫婦喧嘩をして腹が立ったときに、気持ち良さそうにうたた寝している、根は臆病なコイツを驚かして、キャン!と飛び上がるのを見てストレス解消出来るぐらいが取り柄の犬だ。こんなことをするから、子供にはなつく犬も母を見るとビクビクしている。

ところが、このガツガツした犬が、ある朝いっこうにエサをせがみにこない。母親は久しぶりにゆっくり朝食ができると、おいしそうな音をたててトーストを噛んだが、それでも反応がない。さすがに妙に感じて、玄関横のマットに行ってみると、すでに冷たくなっていた。男の子は泣いて悲しんだが、母はろくに世話もしなかった子供が、こんなときだけ一人前に悲しむことが不愉快で、お前は世話をしなかったんだから、メソメソするな、もう二度と犬を拾ってくるんじゃないと、ここぞとばかりにキツく説教した。

数日後、母はスーパーに買い物に行く。つい、いつものクセで一番安いドッグフードをカゴに入れようとして、そうか、もういらないか、バカだな〜と思った瞬間、涙がポロポロとこぼれる。なんで悲しくもないのに涙出してんだ?こんなとこ知り合いに見られて、あのバカ犬のことをそんなに可愛がっていたのかと誤解されたらどうするんだ?とは思うものの、死ぬとわかっていたら、このワンチャングルメとかいうやつ、たまには買ってやってもよかったか、と自分のケチ臭さと思いやりのなさが鮮明によみがえり、いつの間にか涙はボタボタ落ちている。不思議なことに涙が出て初めて自分が悲しんでいること、それに耐えられなかったから、子供を叱ったり、「あー。せいせいしたわ!」などと、ポジティブなふりをしていたと気づいたのだ。今、その強がりが自分の心を残酷に刺している。


以上は、まったくのフィクションです。無くしてみて初めてわかる悲しみもある、そういう例え話です。データの命は意外に短いので、バックアップをするならお早めに。

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