混ぜるな危険!商用ガーンジーと家庭用ガーンジー。ガーンジーの伝説(15)

前回まで「封筒ガーンジー」がガーンジー島の商用ガーンジーとして開発されたものであること、だからショップが「封筒ガーンジー」を正統ガーンジーと言いたがるのではないかと書いた。しかし、現在のガーンジー島のニット会社にとって「伝統ガーンジー」とは、100年前から続く「封筒ガーンジー」だったので、信念を持って「伝統」ニットだと言っているとも解釈できる。これは「伝統」というあいまいな言葉をどう理解するかという問題かもしれない。

家族用と商用は別物

しかし、古いガーンジーセーターには2種類あって「商用の封筒ガーンジー」は2. である。

  1. 交通の便のよくない漁村の自家用ガーンジーで、地域色の強いもの
  2. 手編みであっても、元々商品として開発されたもの

「封筒ガーンジー」を売るショップのなかには、2. に 1. の伝説をまとわせて販売しようとしているものがある。しかし、妻が家族のために特別に編んだのは1. で、2.ではありえない。テーラーメイドがオーダーメイドのふりをしてはならない。このふたつを意図的に混同させるのは、都会人の地方文化に対する侮辱、あるいは只乗りでしかない。

ガーンジーは普通名詞

どんなセーターに「ガーンジー」と名づけようが、それは勝手だ(繰り返しになるが英語では普通名詞だから)。 機械編みセーターのガーンジーセーターを開発して販売し、消費者がいいと思うなら買って着て楽しむ、それは健全な商売だ。

ガーンジー島のガーンジーセーター店が、「昔ながらの」方法で機械編みセーターを作って、これが「ガーンジー島の伝統ガーンジーです」と売るのは、もちろんいいのだ。100年も作っていたら「伝統」と呼ばれる資格は十分すぎるだろう。それは、2. のセーターを 2. として売る行為だから問題ない。

手編みの特徴をうたうのは誇大広告

しかし、手編みのみが可能なガーンジーの特性、そして、かつて母親や妻が家族のために編んだという伝説、これを機械編み製品がうたうことは、完全な誇大広告だ。

一般にメーカーは製品に直接責任を持つ関係で、製作行程をごまかしたりすることは少ない。機械編みなら機械編みと比較的正直にホームページに書く。話を盛りがちなのは、どうも商社・代理店・マスコミ、あたりだ。

「さぬきうどん」を例にとれば

地名を冠した製品で、日本人になじみのあるものとして、「さぬきうどん」をとりあげよう。「さぬきうどん」という名称は、どこで使ってもいいと、全国製麺協同組合連合会も公正取引委員会も認めている。その理由は、「どこで作っても物は同じ」だからだ。

「本場」「特産」などの字や香川の絵・写真を付けなければ、県外で作っても讃岐を名乗っても問題はない。「どこで作っても物は同じ」

だが、なんでも自称し放題というわけではない。味やコシなどに実質的な影響を与える場合は別だ。たとえば「手打」でないのに、「手打」と表示することは不当表示として禁止されている。全国製麺協同組合連合会、生めんの表示、不当表示の禁止のページを見ると次のような禁止項目がある。

(3) 手打式又は手打風の生めん類について、製めん行程が手打であると誤認されるおそれがある表示

手打風又は手打式の製法であるのに、手打と表示してはならない。その他絵や文での表示も同様の扱いとする。

これをガーンジーセーターにあてはめればどうなるか?まず、どこで作られた製品をガーンジーセーターと呼んでもかまわないということだ。日本製のガーンジーセーターも、中国製のガーンジーセーターも許される。

しかし、手編みでないセーターを手編みと呼んだり、商用のニットを家庭用に編んでいたニットと混乱させるのは、あきらかに不当表示にあたるのだ。なぜなら、手編みと機械編みとでは編み地が違うし、商用ニットはテーラーメイド、家庭用ニットはオーダー(自主的?)メイドなので、製品に実質的な差が生まれるからだ。

ガーンジー不当表示禁止項目案

「さぬきうどん」にならって、ガイドラインをまとめよう。ものすごく常識的な規定だと思うが、どうだろう。

  1. どこで作ったセーターをガーンジーセーターと呼んでもかまわない。
  2. いくらかの歴史があれば「伝統」を名乗ってもかまわない。
  3. 手編み風、一部のみ手編み、手仕上げのニットを、手編みと誤認されるような表示をしてはならない。
  4. テーラーメイドニットをオーダーメイドニットと誤認されるような表示をしてはならない。

ガイドラインがあろうがなかろうが、この程度のけじめはしっかり守った上で、消費者の喜ぶニット製品を開発・販売すべきだろう。下らない伝説をもっともらしく流布させるなど、もってのほかだ。

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