専門家も断定!やっぱり溺死のためではない!ガーンジーの伝説(5)

今回は、ガーンジーの伝説(2)について、決定的な記述を見つけたので、その補足として書き足したい。

Rae Compton著 ‘The Complete Book of Traditional Guernsey and Jersey Knitting’ の最初「研究における問題」という章の最初の部分に次のような記述があった。Rae Compton は、ガーンジーなど英国伝統ニットに関しては第一級の研究家だ。

誰かが、自分がほとんど知らない分野のことで、しかも何も証明されていないことを書いているのに、そういう意見ほど、長い間よく見かけたり、引用されたりしている。それなのに、そんな誤った意見をほんのわずかでも修正しようとすると、途方もない困難にぶつかるのだ。ケースネス(訳注:英国の地方)では、今でもガーンジーの文様は溺死者、特に肉親の遭難者の身元確認のために作られたと信じる人がいる。 ニッターはいかなる状況であったとしても自分の作品を判別できるということは事実である。しかし、これまでそんな目的のためにニットデザインをしたと証言した人など唯の一人もいないのだ。

Rae Compton は上の著書を執筆するために、直接各地の取材をしている。その研究家がそのような伝説に関する直接的な証拠が一切ないと証言しているのだから、もはや決定的である。この文章には無責任な伝説に対する憤りが読み取れるように思うがいかがなものだろうか?この憤りをあげつらうかのように無責任な伝説はケースネスという地方に閉じ込められるどころか、はるか日本にまで事実として流布してきたのだ。間違いを正すのは、endlessly difficult だと書いた彼女の嘆きが分かるではないか。 しかも、それは現在も再生産され続けている。ガーンジーセーターの話をするときに、必ずといっていいほど、この伝説を「つかみ」として話す人さえいるらしい。

しかし、無知がなせる業ならともかく、常識的に考えてありえないということを分かりつつ、面白いから、受けるからと、ネタとして話を広げていくのなら、無責任であろう。 編物を愛する人なら、このような伝説は積極的に撲滅していくべきだと思う。要するにそういう伝説があると紹介する必要もないヨタ話なのだ。

結論:妻が夫の溺死を想定してガーンジー模様を編んだなどという伝説は大嘘。


2016.2.24 追記
この伝説、10年たっても消える気配はないようだ。フォートラベルという旅行ガイドサイトのガーンジー島の短い説明の中にさえしっかり出てくる。もう、誰かなんとかしてくれ!

常に危険を伴う漁をする男たちを想い、女性たちはそれぞれの家に伝わるエンブレムを編み模様で表現し、万一の場合はすぐに身元が分かるようにとの想いを込めた。

 

こちらの記事も人気です