手編みセーターの美しいネックを見よ!ガーンジーの伝説(11)

前々回、ガーンジーセーターにも色々なネックがあった、という話を書いた。

前後がないセーターが本物だと?ガーンジーの伝説(9)

今回はガーンジーのネックについて、もう少し詳細に語りたい。

クルーネックは難しい

まず、ガーンジーセーターの標準的なネックは「クルーネック」や「ハイネック」である。つまり、首元がやや詰まったセーターが多い。これは、フィッシャーマンセーターだったら自然な話だ。しかし、首元の開きが狭いセーターと広いセーターを比較すると、狭いセーターの方が技術的に難しい。なぜかと言えば、もともと首元が広く開いていれば、手編みをした際に少々開きのサイズが変わっても、着られなくなることはない。ところが、クルーネックの場合、首回りぎりぎりのネックラインだから、開きは頭のサイズよりも小さい。つまり、着るときには編み地の弾力性でネックを広げて頭を通す必要がある。万一、この弾力性が十分ではなく、頭が通らなければ、そのセーターは一巻の終わりだ。なんとか、ギリギリ通るという場合でも、脱ぎ着しにくく、耳が痛くなるし、強く引っぱるのでセーターが傷みやすい。そこで、拾い目の計算と微妙な手加減が必要なわけだ。

絶妙のネックライン

昔のガーンジーセーターの写真を見るとき、普通の人は編み地の模様にまず目がいくだろう。しかし、手編みをする人間が注目するポイントのひとつは、ネックラインである。現在でも、襟元はおしゃれのポイントだ。写真館で写真を撮ろうというのに、首元が伸びたセーターを着ていたら、かなりダサイ。ポーズをとっているフィッシャーマンの襟元をみると、どれも見事にネックラインが決まっている。ゴム編みが自然に伸び切る寸前のところで、スルッと頭が抜けないと、このラインが崩れる。しかし怖がってゆるくしすぎると、今度はネックラインがシワシワ・ヘロヘロのフリルになり、出来上がった直後から、もう着古したセーターに見える。セーターで襟元の仕上げは最後の行程で、出来映えを左右する、編み手が細心の注意を払って取り組む場所だ。当然とはいえ、写真に残されたガーンジーセーターのネックラインは、100年後からでも拍手したくなるほど美しいものが多い。写真を撮る前に、手で整えたにしても、たいしたものだ。

着やすさを追求して

ネックラインは見た目と同時に実用性でも非常に重要だ。ネックが狭すぎると、こすれて編み地が痛みやすく、苦しい。しかし、広すぎると寒い。そこで、ガーンジーセーターの中でも、最もバリエーションの多い場所となっている。たとえば、首元にボタンを4つもつけているガーンジーもある。寒いときは閉じてタートルになり、暑いときは広げてポロシャツのようになるわけだ。これなら脱ぎ着もしやすい。他には、首回りに紐を通して、前でくくれるようにしてあるガーンジーもある。これも、寒いときは締め、暑くなったら緩めて体温を逃がすのだろう。紐が抜けないように、先にポンポンがついていたりして、そのポンポンを喉の下にふたつぶら下げて写真に収まっているフィッシャーマンは、実に愛らしく見える。もし、編み手が着心地を考えなかったらこんな変化が生まれるだろうか?

フィッシャーマンの嫁は、何にも考えずにいつでもまっすぐ編んでいました、なんて昔のニッターに対する侮辱でしかない。

 

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